立川 歴史の影と活気
昨年四月、東京大学を定年前に退職し立川市にある大学共同利用機関法人・国文学研究資料館(国文研)の館長に就いた。20年前に品川区の戸越にあったころとは打って変わって、新しい建物は太陽の光が燦々と差し込み、広い。国文研自体も、数十年間積み上げた情報の蓄積と通信技術の進歩が相まって、これまでとはまるで違うミッションを負っている。
各地にある古典籍(明治以前の日本の書物)を調査・撮影収集するという保存と公開を中心とした活動から、電子画像で蓄積した膨大なデータをいかに活用し、日本文学研究者に限らず世界のあらゆる学問領域にそれをどう開放するか、という格段に広い視界に立った活動をしている。職員はベテランも若手も、実証的な思考と、グローバルに発信しつつ先方の思いも受け止める柔軟な感性が求められている。
国文研は立川駅からモノレールで2駅のところにある。施設が広い分やや不便。周りには裁判所、国立国語研究所、国立災害医療センターに、映画「シン・ゴジラ―」のロケ地として一躍有名になった陸上自衛隊立川駐屯地がある。これらに隣接して国営昭和記念公園という美しい緑地も広がっている。
公園も駐屯地も周囲の施設も、元々は大正時代に開かれた日本有数の飛行場の一部で、立川はその頃「空の都」と謳われた。戦争と米軍による接収を経て、日本に返還されたのはたかだか40数年前。私が働いた場所の中では最も歴史が新しく、現在の活気と過去の影が入り交じった不思議な魅力的に満ちた街であると感じている。
(2018年2月20日付、東京新聞朝刊より)