August 11, 2013

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夏芝居

新しい歌舞伎座がいちばん気持ちよく感じられるのは夏でしょう。場内は温度にムラがなく寒すぎず、そのうえ、むかしに比べれば前の席との間がたっぷり空いているので、心理的な「涼しさ」が生まれます。幕間も清々しい。1階の喫茶店も3階の食堂も大きな窓ガラスから街の往来が臨めて、いい気分。ビールが旨い。

今日は第2部、「梅雨小袖昔八丈〔つゆこそでむかしはちじょう〕」(髪結新三)と「色彩間苅豆〔いろもようちょっとかりまめ〕」(かさね)の2演目を観劇しました。

「髪結新三」は序幕と二幕目で、江戸日本橋の材木問屋白子屋の一人娘お熊(児太郎)と店の手代忠七(扇雀)が親には内緒で恋仲、駆け落ちするつもりが小悪党の新三(三津五郎)にかどわかされ、深川の長屋に監禁されるという顛末。序幕第一場の店先に現れる新三が忠七の髪をきびきびと撫でつけながら悪計を吹き込むあたり、三津五郎の艶やかでかつ温かいヒールぶりが冴えています。第二場の永代橋前では、新三に罵倒される忠七は初めてお熊を連れて行かれたことに気づき、橋の上から身投げする支度に余念ないけれど、祈る扇雀の指先がなんと愁いにみちて優美なことか。

二幕目は川の向こう、新三の内。上手の路地裏には万年青をはじめ青々とした植木鉢と銅の如雨露が棚に並び、下手の玄関には足を止める魚売りの呼び声、初鰹、その江戸風解体ショー、賑やかで涼しい風景です。お熊を実家に返すべくやってくる家主長兵衛(彌十郎)は、絶妙なお為ごかしが明快で大きな笑いをさそう。

「かさね」は悲惨な恋の始末を澄んだ清元に乗せて目でぐっと引きつける舞踊劇。与右衛門(橋之助)という色悪を絵に描いたようなはぐれた侍に連綿とくっつくかさね(福助)が主人公。滅多斬りにされながらも男の側を離れようとせず、最後には怨霊と化して逃げる彼を花道から引き戻す形相の凄まじさ。時間は真夜中から夜明けまでの一場、後半に後ろの黒幕が切って落とされると白みだす空はかさねの着物と同系色の紫がかったねずみ色。橋の下をゆっくり流れてくる髑髏に鎌が刺さり、おぞましい。「おそろしいはお前の心」と古風にかまえる福助の挙措が美しい。清元は、若き清美太夫が圧巻。

歌舞伎座.JPG