October 21, 2012

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立て板に水と、板に落ちる大粒の雨

昨日の昼に東大本郷キャンパスでホームカミングディ特別フォーラムがあり、素粒子物理学者・村山斉教授と対談しました。江川雅子東京大学理事が司会。天気もよく、あらゆる年齢の同窓生たちがキャンパス中をカップルや家族、4、5人の塊でゆったり歩いています。学生サークルの店もあれば大道芸人もあり、ちょっとしたお祭気分。11:30に安田講堂の2階にある総長応接室(初めて足を踏み入れた場所)で落ち合って打合せ。しかし奥の壁に掛けられている、ニューヨーク在住の日本画家大野寛子による大作「ニュートンのリンゴ 小石川植物園」から目が放せず、失礼ながら、打合せに身が入りません。

時間になったら下に降りよう、ということで大理石の階段を降りて講堂に入ります。入場者はまばらで、そこから20分間、キャンパス中から人々が五月雨式に吸い寄せられるように入ってきます。一般の人も大勢いて、やがて盛況といえるほど賑々しい雰囲気に変化。会場には濱田純一東大総長をはじめ元国際連合事務次長・明石康さんや、元文部大臣・有馬朗人さんなどがおられ、舞台の上から目を凝らして見わたすと駒場の若い同僚などがちらほら席に着いているのが見えます。

それぞれ10分ほどの自己紹介タイムがあって、終わるとそこから村山教授の話を聞き、自分では一気にしゃべり倒した記憶が残ります。「海外で学ぶ・働くことを決意したきっかけは何か」、とか「これまで経験した中で、楽しかったこと、苦しかったことは何か」とか、学生へのメッセージを最後にこめて締めるというコンパクトで丁寧な構成になっていました。

村山教授は、科学者ですからこちらの先入観からいえば少し硬く行きつ戻りつのエクセントリックな語り口、を期待しましたが外れました。立て板に水とはこれをいうか、とにかく情熱と豊かな連想が込められた話しっぷりに聞き惚れました。ドイツで育った時代の思いで、帰国してから高校と大学で遭ってしまった「アウトサイダー」へのまなざし、東大で学びながら「先輩敬語」など日本の教育風土にあわず、飛び出して自分がやらねばならないことをカリフォルニア大学で発見し、数年前、やがて日本でも仕事するきっかけとその現状についてスピーディかつ柔らかな口調でたくさんのエピソードを披露してくれました。村山さんは今でもほぼ毎週、バークレーと東大との間を飛行機で往復しながら「2人分」の講義と学内行政をこなしておられます。わたくしなど絶対にできないことに、脱帽。

14:00ちょっと過ぎにフォーラムが終わるとキャンパスに放り出され、30分ほど非日常の秋日和を堪能した。フォーラムでも生出演でも講義でも、1個終わるといつでも30分くらいは樹木とか水がある場所を自由に歩き回りたいですが、いつもはできないですね。

その後は本郷通りに面しているカレー&喫茶のルオーに登ってNHK/共同テレビスタッフとともに次回のBooked for Japanについて一時間半ほど議論というか、打ち合わせします。Jブンガク以来の制作チームが中心で、阿吽の呼吸。終わるとタクシーに乗り込んで幡ヶ谷は東京オペラシティー コンサートホールを目指します。

19:00開演。ジャズピアニスト秋吉敏子の65周年記念チャリティコンサート。わたくしが生まれる前からニューヨークジャズシーンの真ん真ん中に君臨している無双の日本人プレイヤーで、10代のころ、継父から1960年にジャズクラブで聴いた彼女のライヴの凄さを何度聞かされたことか。夫ルー・タバキンは伝説のサックス奏者で、今回も同伴で来日。ルーは後半にサックスとフルートを振るってSumie(フルート)、Eulogy(サックス)、孤軍(フルート)、Lady Liberty(サックス)を伴奏しました。秋吉さんの、とうてい82歳と思えない艶やかな鍵盤さばきと姿勢と曲ごとのショートトークの冴えに感激。休憩中にご挨拶に楽屋を訪問。前半部分で着ていらした白いパンツスーツから黒に鮮やかな緑色アプリケーを縫い付けたロングドレスに着替えて廊下を歩いておられました。恰好いい!前半によかったのは少女時代、別府で覚えて米軍の前で弾いていたSweet Lorraine。大粒の雨がぽたぽた堅い板の上に落ちるような温かく確かな音です。後半は秋吉さん作曲の名作Eulogyで、ルーさんとのコンビーが絶妙。

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