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February 18, 2017

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静かな言葉に変わる「反対」/『北國新聞』2月17日付夕刊「泣き笑い日本のツボ」より

 北國新聞と富山新聞に毎月1回書いている「泣き笑い日本のツボ」は、連載開始から2年目に入りました。

 北國新聞では2月17日(富山新聞では2月18日)に掲載された文章を転載します。

   

静かな言葉に変わる「反対」 トランプ政権誕生1カ月
  
 トランプ政権の誕生から一カ月を迎えようとする今、アメリカでは新大統領を支持するか否かを問わず、政権運営の混乱ぶりに異議を申し立てる声が多い。既成権力をワシントンから追い出す約束を守るべく登場したトランプ陣営だが、はやくも内側から亀裂が走り始めている。
  
 大統領の再側近で日米安保のあり方に巨大な影響力をもつ国家安全保障担当のマイケル・フリン大統領補佐官が、一カ月足らずで辞任に追い込まれた。就任する前、つまりオバマ政権末期の昨年12月、一民間人として駐米ロシア大使と複数回電話で話し、アメリカの対ロ制裁見直しを示唆したという。
 外交に干渉したことは問題だが、かつて同じ役職にいたヘンリー・キッシンジャー氏がニクソン大統領の就任直前にソ連のスパイと会って密談したこともあり、前例のない行為であったわけではない。辞任を決定させたのは、フリンがその事実を副大統領に正確に伝えなかった、つまり嘘をついたことがバレたのである。その2日後、トランプ氏が労働省長官に推薦したビジネスマンが不法滞在中の人間を清掃員に雇った過去があることが知られ、議会から非難を向けられたために指名を辞退するという出来事があった。
  
 非難が渦巻くワシントンから離れてみても、トランプ流のポピュリズムそのものをめぐって、いくつもの亀裂が生じている。よく言われるように、右と左、白人種と有色人種、都会と地方、富める者と持たざる者という具合に、アメリカは複雑に分断されている。メディアへの不信感も募り、多くの人々は、現状に対する違和感や抵抗をどう表現すればいいか迷っているように見える。
  
IMG_3098.jpg しかし、ここ2週間ほどで、トランプ氏が進めようとする排他的なアメリカ・ファーストに対する抗議の仕方に、ひとつの変化が見てとれる。選挙中から就任直後の大規模なデモは規模をしぼりながら各地へと広がっていることと、影響力の強い芸能人らによる非難や呼び掛けが一見穏やかになった、ということである。
  
 記憶に新しいのは先週、米国最大のスポーツの祭典であるスーパーボウルのハーフタイムショーでレイディ・ガガが語り、そして歌った言葉だ。選挙後強烈な抗議を繰り返したガガだが、ここでは米国人なら誰もが愛国心を感じる「第2の国歌」God Bless America(アメリカに神の祝福あれ)と、平等と自由を謳歌したウッディ・ガスリーのThis Land Is Your Land(この国はお前の国)の一節を歌い、国民全員が諳誦している忠誠の誓いからは「神の下に不可分の一つの国歌、万民のための自由と正義」のくだりを朗唱した。
 前者は迫害を逃れ、ロシアから米国に移民した作曲家アーヴィング・バーリンの名作、後者は60年代の公民権運動では主題歌として歌われたフォーク・ソング。歌詞の中には「ぶらぶら歩いていると看板が見えた/表には「立ち入り禁止」/でも裏には何も書いていない/そっち側がみんなの場所だ」と続いている。
  
 「反対」の形は大勢で声高に、から一人ひとりへ、心と記憶に訴える一層強力なメッセージに変わろうとしている。静かだが、穏やかではない。
  
(東大大学院教授、日本文学研究者)