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ROBERT CAMPBELL
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September 7, 2013

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桂文枝さんと大阪で。鮨折りおおきに。

一昨年から Booked for Japan という対談番組のホスト役をつとめています(NHKワールド放送 http://www3.nhk.or.jp/nhkworld/english/tv/bookedforjapan/index.html)。 月一、国内(まれには海外)で一本ずつ撮っていきますが、その番組をやっていて何が面白いかと言いうと日本を代表する各界のゲストと差しでたっぷりと話が聞けることと、その人の人生にとって、どんな本が今まで一番大切であったのか、またそれはなぜか、を詳しく聞き、語り合えるという2点に尽きます。収録は全部日本語で行い、あとで字幕と副音声を加えて英語でも視聴できるようにしています。もともとBooked for Japanとは「手配済み(booked)だから、さあ、ニッポンへ行こう!」という意味と、「本(book)好きな国ニッポン」というニュアンスをかけて作ったタイトルです。ワールドなので世界に向けて放送している、言いかえれば日本国内の地上波には乗らない番組だから、海外の視聴者からは折々に、国内からはごく希にしかリアクションは来ません。インターネットで再放送もふくめライブストリーミングをしていますので、試しに覗いてみてください。

 

ゲストが決まるとまずどの本を取り上げるか、聞くわけですが、2つ返事で回答する人もいれば、うんん、ちょっと待ってね、というふうに直前まで呻吟する人もいます。とにかく決まったら真っ直ぐにその一冊をわたくしが読まなければなりませんが、初めてのタイトルが多く、これが中々ためになります。ためになるというのは、元来ほとんどがとてもいい本だけれど、内容と雰囲気がわたくしに合う合わない以前に、これから迎える一人の相手を理解するうえで何かカギのようなものを秘めているという予感を膨らませてくれます。共通するのは、その方が若かった時代、まだ坂道をよじ登ることしか知らない自分に坂の向こうの景色を味わわせてくれたり、少しだけ、背中をぐっと押してくれたりする記憶に染まっています。話しながら気づくことですが、功成り名遂げた人物ほど自分の語りが確立されています。揺らしがたく、いつもと違う、もう一つディープな視界を切りひらいてもらうのに苦心します。そこで一冊の本がテーブルの真ん中にあると助かる。遠かった相手の記憶が迫ってきてはやわらぎ、開くのと同時に、こちらの読み方に反応しながら一冊の内容に託して、自分の世界観を語ろうとします。2人の間に本を置くだけで、出来上がった「自分」から少しだけ距離を置き、自由になるようです。だいたい表情も生き生きします。

 

なるほど、と納得するチョイスもあれば、聞いて違和感を覚えるチョイスもあるでしょう。登場してくださった人から数名の「座右の書」をあげてみると、このようになります(略敬称)。 

 坂本龍一 ダニエル・クイン『イシュマエル』(2012年1月年放送)

 杉本博司 川端康成「美しい日本の私」(2012年8月放送)

 市川團十郎 佐藤勝彦『宇宙はこうして誕生した』(2012年10月放送)

 秋吉敏子 『五輪書』(2012年11月放送)

 梅原猛 ニーチェ『ツァラトゥストラかく語りき』(2013年5月放送)

 金本兼次郎 吉井勇『墨水十二夜』(2013年6月放送)

 古川聡 星新一「処刑」(2013年7月放送)

 

團十郎丈は、昨年、具合を悪くされる前の9月20日に渋谷セルリアンタワーの金田中に来てくださいました。能舞台を臨む座敷で長時間、ゆっくりと語っていただきましたが、もっとも目を耀かせたのは子供のころ、お父さまといっしょに天体望遠鏡を覗いて知った夜空の美しさ、大人として学びつづけた宇宙科学の進展、人間が本能としてもつ冒険心をめぐって考えておられる様々なお話の最中でした。歌舞伎役者にして驚くほどの知識をお持ちで、宇宙の神秘が、劇を見続ける人間の本心とつながっていることに、自分の使命を重ねて考えることができる人でした。

 

1.JPGさて今月の収録日は昨日、大阪市天神橋の相生楼で行い、お相手は、昨年から襲名公演を重ねておられる桂文枝師匠。「新婚さんいらっしゃい!」をはじめテレビ司会者として強烈なイメージを身にまとっておられる師匠なだけに、落語との接点を見落としがちですが、かなり前から作者・演者として自分流の創作落語に打ち込み、上方落語の第一人者にまで登りつめておられます。ふだんテレビでは見られない繊細にして骨太の新境地を開きまくっておられますが、とくに昨年12月にパリで行った襲名披露公演は好評でした。パリでは創作落語2.JPG「ワニ」を披露。人を噛んだために処分が決まったワニを助けようと動物園の飼育員が奮闘する噺。ちなみにいくつも聞きましたが、師匠の落語のなかでマイ・ベスト・ツーは「猫すねちゃった」と「仲直り」。

 

パリの話もさることながら、昨日よかったのは師匠の愛読書、山本有三作『路傍の石』(1941年単行本刊行)。厳しい環境に育ちながら擦れたところを見せずとにかく人から笑われないような大人になりたいと願う主人公、少年の吾一は、文枝さんの幼い記憶の残映と瓜二つに思えました。寂しいところと鼻っぱしの強さ、お母さんへの思い、スローで低めの声で淡々と語る師匠の話の中に、ぐいぐいと引きつけられていきました。

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相当長い収録で、少しお疲れになったのかもしれません。マネージャーさんは途中、天満宮の近くにあっておそらくよく使っていらっしゃる鮨屋さんに走って、鮨折りを一つ買ってきたらしい。休憩の間に、「帰りの新幹線でね」といって、そっとそれをわたくしに渡してくれます。東京に100年暮らせど、あり得ない光景である。ありがたく頂戴して、18:10発ののぞみ号に間に合うよう新大阪に向かう。車中で食べた穴子と押鮨は、最高。

 

桂文枝さんご出演のBook for Japanは、9月27日から順次世界放送。

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