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ROBERT CAMPBELL
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August 25, 2013

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へり下るコツ、教えます

先日『週刊朝日』の編集者からメールが来て、内館牧子さんの新著『カネを積まれても使いたくない日本語』(朝日新書)を読んでほしいとのこと。内館さんとは主治医がいっしょというご縁もあって、ときどき3人で食事に出かけ、ひたすら美味しいワインを飲みながら、話し込みます。

 

話の内容はさまざま。それより内館さんの話し方が逸品です。「四方山話」の字面がぴったりで、さわやかというよりもあの山からこれ、そこの谷間からそれ、固い木の実も苦い山菜も甘い果実も、とにかく360度から次々と面白いエピソードを運んできて、止まるところを知りません。すべて、洗練された話術で。その内館さんの「使いたくない日本語」が何か、聞かずにはいられようものか。さっそく完読しました。

 

武器は積んでいます。放送作家として培った日本語への絶対音感に加え、①テレビを視ながら、かなり詳細な速記ノートを取る習慣を身につけておられるらしいこと、②2012年8月に、朝日新聞社の会員サービス「アスパラクラブ」で特別に「日本語に関するアンケート」を取ってもらえたこと、などが挙げられます。内館さんは、「変な日本語」の実態と、人々の認識をふたつながらバッチリ定点観測できる立場を確立しているから、強いわけです。

 

本書のミソは第二章「過剰なへり下り」と第三章「断定回避の言葉」。波風も立てず「安心して」コミュニケーションが取れると思うから頼ってしまう「へり下り」も、やみくもにぼかした言い方の力でその場をしのぐ「断定回避」も、陸続きではあるが、それぞれに「なるほど」といわせる共通項を著者は見出しています。あるある、だけで終わりません。ダメ日本語の棚卸しを通して日本人の、日本社会のかなり深い部分に根を生やしているエゴイスティックな同調志向と、他者依存の見取り図を目の前に見るようです。

 

ところで読む、で終わる話ではなくこの一冊に提示されるような使いたくない日本語について、一文を書けと編集者は言う。そこで先週発売の『週刊朝日』に「特別寄稿 日本語の力をそぐ『美しくない』言葉たち」という文章を寄せましたので、抜粋して下に再録します。嬉しいことに、拙稿に対する内館さんご本人のリスポンスも載っていますので、関心ある方はぜひ雑誌で読んでみてください。

 

「 英語でうまくへりくだるのにコツが要る。自虐ギャグはもちろんたくさんある。たとえば先日、英国のウィリアム王子とキャサリン王妃が初めてロヤルベビーを抱きしめ、病院玄関で待つカメラの前に現れた。赤ちゃんの感想を聞かれて、王子が"He's got her looks, thankfully"(「幸いルックスは彼女似だ」)と言うと、妃は笑顔で"No, no, I'm not sure about that."(いえいえ、そんなこときっとないと思うわ」)とすかさず謙遜。その先の王子の一句がさえている。"He's got way more hair than me, thank God!"(ぼくより髪の毛がふさすさなんだ。神様ありがとう)。ナイスへり下り。画面に映るべビーのお頭は、もちろん、ツルツルである。

 ウィッティなやりとりを、もし王子が「今後、心をこめてこの子を育てさせていただきます」と締めくくったらどうか。かなり殺風景。というより、「させていただきます」などは英語にはないので、想像がつかない。実際、王子が車に乗り込む直前に投げた言葉は、"Hopefully, the hospital and you guys can all go back to normal now, and we can go and look after him."(これで病院も諸君も普段通りにもどって、私たちも彼の面倒を見られるようになればいいね)とさりげなく、真っ直ぐで、格好いい。(中略)

 要は「へり下り」をやめるタイミングを知ることと、自分が過剰に卑下していないかを感知する能力(と若干の勇気)を身にたくわえることが大切なのだ。政治家の二言目に出てくる「国民の皆様」も、敬語インフレの最たるもので、日本語が持つせっかくの力をそいでいる。(中略)

 「早速、ゲストをお呼びしてみたいと思います」。

女子アナの片言隻句をチェックする内館さんは、こうした何げない表現を見過ごさない。なるほど。日常的に使われているから聞き流してしまうが、そのゲストはどう考えてもメイクを終え、すぐそこに立っているはずである。「呼んでみたいが来てくれなかった」なんてことはあるか。言い切ってしまうことがぶっきらぼうに聞こえるから婉曲に、という気持ちでおそらく「みたい」とか「思います」をジャラジャラ最後にぶら下げているだけである。「では早速、ゲストをお呼びしましょう」でいいはずなのに。」 

 

ところで「特別寄稿」とは別に、編集者の提案でキャンベル版「カネを積まれても使いたくない日本語」トップ5を挙げてみましたので、合わせてご覧にいれます(順不同)。みなさま、共感湧きますか?

 

●「イケメン」 真顔では、本当に格好いい人に対して使えない。おちょくっている気がしてならない。

●「お召し上がりですか」 ファストフード店のレジで問われているのは店内で食べるか持ち帰りかだが、いつも、食べないでどうするの?と思う。

●「ぐぁーん」 擬態語大好きな僕でも、大ざっぱすぎて頭がぐぁーんとなる。

●「バラす」「はける」「笑う」 芸能界用語で「退く」の意。スタジオの外で聞くとゲンナリ。やはり下品だね。

●「あ、そうなんですね」 転んで血を出していても、最初から分かっていたわよと言わんばかりの、冷たい相づち。

 

 

写真は、今日の昼過ぎ、五反田駅東口前で迷い込んだひまわり畑の風景。

ひまわり.JPG