October 17, 2012

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頭文字だけの白いお墓

一昨日書いたように、鎌倉には夥しい岩とやぐらがありますが、今日は石つながりということで先週アメリカのボストンで見つけた小さな石を1個紹介しましょう。

場所はケンブリッジにあるMount Auburn Cemeteryという、ボストン上流社会の家々が墓所をかまえる霊園の一角です。頭文字しか記されていないので分かりづらいですが、ここに眠るのは19世紀末に来日した医師で日本美術コレクターのウィリアム・スタージス・ビゲロー(William Sturgis Bigelow)です。フェノロサや岡倉天心らとともに日本中を歩き回り、40,000点以上の日本美術品を買い上げ、持ち帰ると建って間もないボストン美術館にその全てを寄贈した人物です。日本で仏教に帰依したビゲローは、亡くなると荼毘に付され、遺骨をここと大津市三井寺に分骨させました。

わたくしは、数年前から研究仲間といっしょにボストン美術館にある江戸時代の絵本を調査してきました。今回が最終回。我々が見ることのできた6,000タイトル以上ある絵本のかなりの部分を、このビゲローが見いだし、代々の学芸員が大切に保管してこられた文化財です。最後にお墓参りができて、嬉しかったです。

写真を見て分かるように、わたくしのラペルにはピンマイクがついています。調査の模様、ビゲローの輪郭、そして江戸絵本の素晴らしさをテレビ番組Booked for Japan で伝えようと、この日はカメラクルーといっしょに霊園を回りました。お墓から中継。どんな顔をして語ればいいのか朝から緊張しまくっていましたが、小さな墓石が見つかった瞬間に気持ちがやわらぎ、言葉が自然に流れていきました。放送日が決まったら、お知らせします(NHK-WORLD海外向け放送、キャンベル司会。ただしウェブサイトから自由に視聴できます。

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